小学館ライトノベル大賞
第4回小学館ライトノベル大賞2

ゲスト審査委員 竜騎士07  応募総数 803本

大賞
該当作なし
ガガガ賞
『Wandervogel』 以似繰字
『ななかさんは現実』 鮫島くらげ
優秀賞
『黄昏世界の絶対逃走』 東部陽村
『サイ』 石川あまね
審査員特別賞
『病葉兄妹 対 少年結社ウサギ団』  大谷 久

(敬称略)


ゲスト審査員講評 竜騎士07

漫画は、時に原作者と漫画家が組むことがあります。これは料理を作る関係にも似ています。
斬新で面白いアイデアを見つけてくる原作者は、良い素材を見つけてくる猟師のよう。
その素材をよりわかりやすく描いて加工する漫画家は、まるで調理師のよう。ここまでは、皆さんにもきっとご同意いただけるものと思います。
しかし、その猟師にして原作者である“物書き”も、実は、猟師と調理師の2つが組み合わさっていたりします。
斬新で面白いアイデアを見つけてくる猟師と、それを読みやすく美しい文章に加工する調理師。この関係は、漫画であっても小説であっても、同じなのです。

私は物書きの方を見る時、その方は、猟師と調理師、どちらの出身なのかを見るようにしています。 新鮮な果物はもいで食べただけでも美味しいです。それを見つけた猟師は素晴らしい。
しかし、ありきたりな素材だけを使って、天才的な料理を作る調理師もまた、素晴らしい。
なら、前者と後者の、どちらを評価しなければならないのか…?
料理に例えたなら、それを決着するのはもう「味」しかありません。

よって私は、たとえ盛り付けが未熟だったり、とても食べられそうもない外見をした料理であっても全て口にし、純粋に味だけを評価させてもらいました。
食欲が湧くように盛り付けるのも立派な料理術です。誰もが一口で箸を置いてしまうような料理でも、最後まで食べた私はその意味において、猟師出身であり、やや猟師に有利な講評をしたと思います。
予め、それをご了承いただければ幸いです。

「Wandervogel」はTRPGのリプレイを楽しんでいるような世界観。未知のTRPGのセッションに加わったような楽しさがあります。物語もRPGに準拠したお約束がとても満載でくすりとさせられます。RPGは、MMOよりテーブルトークが大好きな方に特にお奨めです。いっそ、リプレイ風に、脚本のように書いても良かったと思います。

「ななかさんは現実」は、二次元と三次元の恋の違いを描こうと挑戦した意欲作。そのテーマが明確に描かれて提示されている点が非常に好感を持てました。三次元のななかさんにわずかでも泥臭さを持たせられれば、もっと膨らみ、文字通り三次元のヒロインになったと思います。個人的に、挑戦したテーマはとても好きでした。

「黄昏世界の絶対逃走」は圧政の未来荒廃世界を舞台にしたハードボイルド。料理術は素晴らしかったが、素材にして大皿であるはずの「世界」が記号に頼り切られていたのが本当に惜しい! ハードボイルドは体制への反抗心が大切。「世界」の圧政をもっとしっかり描き、窮屈でクソッタレな世界をもっと重く描けていたら、主人公のカッコ良さと、逃避行の緊張感はもっともっと深まったと思います。素材の仕込みが本当に惜しい…。

「病葉兄妹 対 少年結社ウサギ団」は、素材も料理術もともに優れた快作。探偵対怪人ではなく、呪い師対怪人という新しい境地に挑戦した意欲作でもあります。とても惜しいのは、その新しい世界を生かした「新しいバトル」が提案できなかったこと。探偵対怪人なら、トリックの知恵比べで戦うように、呪い師対怪人なら、呪いで戦う。その戦いの“駆け引き”が完璧に描けていたら文句なしでした。ぜひ呪い対呪いの“駆け引き”を生み出し、再挑戦してほしい作品です。

「サイ」は素材も料理術も素晴らしく、前述の4作に比べ特に秀でていたのは、緊張感を強く醸し出していた点でした。異様な世界観に異様な展開。最後まで読み終えると、エピローグと思って侮っていた部分さえ、見事なボリュームと吸引力。もはや第2章でさえありました。事件後にさらに吸引力が増すという、どこまでもグイグイ掴んで離さない見事な作品でした。
個人的には、主人公とヒロインの「役割」が逆だった方が読後感が良かったのではないかと思いますが、これは講評ではなく、「サイ」という作品を読んだ一読者としての感想に過ぎません。審査員という立場を忘れて議論することが出来る、見事な作品でした。
上記5作の中では本作が、個人的にもっとも楽しく読むことが出来ました。

さて、審査員特別賞なのですが、悩みに悩んだ末、「病葉兄妹 対 少年結社ウサギ団」を選びたいと思います。
私的総合評価では「サイ」に劣ります。しかし、素晴らしき素材と料理術。そしてあまりに明白な欠点。だからこそ本作には、まだまだ磨く余地があり、より強い輝きを予見できるのです。

猟師は良き素材を見つけると歓喜し、それを調理師に譲り、最高の料理を夢見ます。
そんな気持ちで、本作にエールを送りたいと思います。

駄文での講評、ここまでお読み下さいまして、誠にありがとうございました。
審査をしながら、自分の未熟さを何度も思い知らされました。
この貴重な機会を糧に、以後、自分の拙作を省みながら、自分も物書きの端くれとして、さらに勉強を重ねていきたいと思います。

この度は貴重な機会を賜りまして、誠にありがとうございました。

竜騎士07 



編集部講評

 第4回小学館ライトノベル大賞、今年もガガガ部門に多くの力作をご応募いただきまして、ありがとうございました。
 前回同様、長編作品のみの募集でしたが、応募数はさらに増え過去最多の作品が集まりました。 今回のゲスト審査員は竜騎士07先生をむかえ、非常にレベルの高い作品が拮抗し、最終審査での選考は白熱を極めました。
 そして編集部と竜騎士07先生による厳正なる審査のうえ、ガガガ賞2作、優秀賞2作、そして審査員特別賞1作、計5作品が決定いたしました。
 各作品それぞれにつきましては、竜騎士07先生からいただいた講評に詳しくありますので割愛させていただきますが、5作品のラインアップを改めて見てみますと、各作品に共通して言えることは、どの作品も今のライトノベルの活況をそのまま表わすかのような、チャレンジ精神に溢れた作品だということに尽きると思います。
 個性豊かな作品ばかりですが、ガガガ文庫というレーベルの方向性さらにはエンターテイメントの新しい潮流が、これらの作品に詰まっていることは間違いないと言えるのではないでしょうか。
 受賞作は、さらなる推敲・改良が加わり生まれ変わって、今年の5月から随時発刊される予定です。そして第5回大賞の募集も既に始まっています。9月の締め切りを目指し現在執筆のまっただ中、という方も多いかとは思います。また次回も、多くの素晴らしい作品に出会えますことを、編集部一同心より楽しみにしております。





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