ゲスト審査員 麻枝 准(Key/株式会社ビジュアルアーツ) 応募総数 833本
『こうして、彼は屋上を燃やすことにした』 カミツキレイニー
『脱兎リベンジ』 半べそ
『寄生彼女スバク』 砂義出雲
『From〜とある不幸の手紙』 名前で悩むくらいならまずカケヤ
『ここめが生き肝を食べた。』 堀北パルプ
(敬称略)
麻枝 准
自分は物書きではないので(あくまでもクリエイターというスタンスなので)、文章力では判断できません。
ただの一読者として「これいいから読んでみなよ!」と誰かに薦めたくなるかどうかを判断基準にしました。エンターテイメントとは根元的にはそうあるべきだと思うからです。それを仕事にして食べていくのなら尚更です。
しかし今回はそこまでの衝動に駆られる作品には出会えませんでした。残念。
ですが、自分自身もそうでしたが、作家もお客さんに支えられかつ叱咤されて育つわけで、ライトノベル業界の入り口に立った彼らがどのように羽ばたいていくかが非常に楽しみです。
「ここめが生き肝を食べた。」
は候補作品の中でもずば抜けて面白かったです。キャラクターとギャグがとてもよく書けているので、一定して面白い作品を供給していけそうな安定感がすでにあります。
「こうして、彼は屋上を燃やすことにした」
は、独特の空気感を纏ったジュブナイル小説(あえてライトノベルとは呼びません)。オズの魔法使いに登場するキャラクター名で記号的に呼び合う仲間たちの物語なので、その空気が後半まで壊れない。そしてそれを壊す時=その隠されていた登場キャラクターの名前が一気に明かされるシーンは、鳥肌モノでした。
「脱兎リベンジ」
は、今回の候補作品の中でも一番カタルシスが味わえる作品。とても青春していていいのですが、ここまで主人公に見た目で劣等感を持たせるとは、イラストレーター泣かせだな、と思いました(笑)。この設定で売れそうな表紙を描くのは相当難しいと思います。よって読者に共感を覚えてもらうのも難しいかな?と考えてしまいました。
「From〜とある不幸の手紙」
は、文章力なんて判断できないと言っておきながら、一番筆力を感じました。とことんまで読者をスカしてくれます。もちろんいい意味で。ラストも、主人公的にはハッピーエンドかもしれないけど、ぜんぜん何も終わった気がしないし、結局精神科医の手のひらで踊らされていただけなのでは?と思ってしまう読後感の悪さ! ペンネームの煽りも含め、すべて狙い澄ましてやっているんでしょう。してやられました。
「寄生彼女スバク」
は、サナダムシをヒロインにした勇気が凄い! どう巡り巡ってそこに辿り着いたかはわかりませんが、間違いなく誰もやったことがないと思います。ニューヒロインの誕生です。後、義理の妹の性格も斬新! こんなキャラ見たことない! ニュー妹キャラの誕生です。
さて、審査員特別賞ですが、非常に迷いました。
ギャグ重視のまさに『ライトノベル』な
「ここめが生き肝を食べた。」
か、それとも自分が所属するKey作品のカラーに近い、心に残る『ジュブナイル小説』の
「こうして、彼は屋上を燃やすことにした」
か。
自分の好みは後者ですが、今回は敢えて、前者の
「ここめが生き肝を食べた。」
に贈らせて頂きます。ここまでキャラクターとギャグが書ける作家さんはなかなか居ないからです。後は一過性の作品ではなく
「こうして、彼は屋上を燃やすことにした」
のような『心に残る作品』も書けるようになれば鬼に金棒。一生物書きで食べていけます。是非そうなるよう、頑張って欲しいです。
最後になりますが、今回このような素晴らしい機会をご提供下さったガガガ文庫編集部の皆様に心から御礼申し上げます。ありがとうございました。
麻枝 准
今回も、第5回小学館ライトノベル大賞・ガガガ部門に多くの力作をご応募いただきまして、ありがとうございました。
ガガガ文庫部門は、応募数が年々増えており、今年も過去最多の833作品が集まりました。
今回はゲスト審査員に麻枝准先生(Key/株式会社ビジュアルアーツ)をむかえ、編集部と先生による厳正なる審査のうえ、ガガガ大賞1作、ガガガ賞1作、優秀賞2作、そして審査員特別賞1作の計5作品が決定いたしました。
各作品それぞれにつきましては、麻枝准先生からいただいた講評に詳しくありますので割愛させていただきますが、今回は5作品まったくカラーの異なる、かなり個性の強い作品がそろいました。
ライトノベルというジャンルの中にありながら、その枠にとらわれない新しい発想によるこの5作品は、まさに現在のガガガ文庫のカラーを非常に良く表わしているのではないかと思います。
受賞作はこれから、さらなる推敲・改良のうえ新しい作品に生まれ変わって、5月から随時発刊される予定です。
そして第6回大賞の募集も既に始まっています。9月末の締め切りを目指し現在執筆のまっただ中、という方も多いかとは思います。
また次回も、多くの素晴らしい作品に出会えますことを、編集部一同心より楽しみにしております。