小学館ライトノベル大賞
第6回小学館ライトノベル大賞2

ゲスト審査員 畑 健二郎 応募総数 829本

大賞
『りあモンっ!』 、、。(てんてんまる)
優秀賞
『ウラビトのトビラ』 高岡杉成
『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』 ペロペロ山根
『吾輩は猫又である』 竹林七草
審査員特別賞
『それは、ついんてーるの異世界』 水沢 夢

(敬称略)


ゲスト審査員講評 畑 健二郎
今回、作品を審査させていただくにあたって、まず念頭に置いたのは、僕が小説家ではなく、漫画家であるという点です。
文章力や技術の話はプロの編集さんたちにお任せして、僕自身は『それが商業作品として通用するか?』『お金を出してでも買う価値があるか?』つまり『店頭に並んだ時、その作品は売れるかどうか?』を審査基準として、審査させていただきました。
プロとしてライトノベル作家を目指す方々は、上手い下手以上に、書いた作品でご飯を食べていかなくてはいけません。
なので、そういうシビアな視点から、読ませていただきました。

「ウラビトのトビラ」は作者の実力を感じました。文章、物語、設定、キャラクター作り、どれもうまい。ただ、うまいのですが、全体的に地味な印象も受けました。
作品の吸引力となるアイディアをもう少し強目に打ち出した方が良いかなぁと思います。
新人で技術力のある人ほど、物語を自分の手の中に収まるくらいの大きさでまとめてしまいがちです。上手いが故にアクセルを踏み過ぎないよう気をつけて物語を走らせる事が出来るからです。
しかし、自分でも制御できるかどうか分からないくらい強いアイディアを制してこそ、読者に本を購入させることが出来るのだと、僕は思っています。
そういう強いアイディアを制するだけの力はもうあると思うので、出版する際には、もう少しだけアクセルを踏み切った形で、頑張ってください。

「吾輩は猫又である」は、主人公である猫のキャラクターがすごくよかった。文章もとても読みやすかったです。
ただ、ストーリーが全体的にインパクトに欠けるかなぁと思いました。
猫のキャラクターが良いだけに、もっとストーリーにもインパクトが欲しかったです。
そうでなくては猫のキャラクターにそれほど魅力を感じない人には、あまり何も引っかからない作品になってしまうかもしれません。だから、そういう人に対しての武器がもっと必要かなぁと思います。
その武器を作り出せるだけの実力は十分あると思いますので、出版に際しては、よりたくさんの武器で武装した作品を期待しています。

「下ネタという概念が存在しない退屈な世界」は、強烈な個性がありました。
しかし、若さ故なのか、全体的にまとまりに欠けていて、少々荒っぽいとも感じました。
まぁ、そういう部分に関しては、出版にあたり推敲を重ね、修正されていくのだと思いますので、一つ一つのシーンを大事にして、作品を練り上げていってください。
とはいえ、強烈なアイディアをその勢いのままに形にしようとする、その突破力は商業作家として強力な武器になると思います。
なので、そういった自分の個性は大事にしつつ、才能を伸ばしていってください。
年齢を考えればまだ始まったばかり。期待しています。

そして「りあモンっ!」、これは単純に面白かった。
この投稿作自体はハッキリ言って荒削りな部分が多かったです。
しかし、その荒さを考慮に入れても、アイディア力があり、テーマも興味深く、エンターテイメント性に優れていて、そして何より小説でしか読めない面白さに満ちた作品でした。
悪ふざけのような出だしからは想像もできない『命』を巡る物語。
商業作品として読ませるには、丁寧に手直しをしなくてはいけないと思った部分も多いです。しかし、作品の向いている方向性や、描こうとしているテーマをもう一度きちんと見直して推敲を重ねれば、間違いなく傑作になると思いました。
ここまで書いたなら、多少時間をかけてでも、高い目標を目指してほしい。
傑作として完成させ、世に送り出してほしい。
読んでもらえれば絶対に『面白い』と言わせるだけの作品力があります。
頑張ってください!

そして、今回審査員特別賞に選ばせてもらったのは「それは、ついんてーるの異世界」。読み終わった瞬間の感想は『もうこのまま出版するといいよ。もしくは来週からアニメ化とかするといいよ』という感じ。
笑いました。小説を読みながら声を出して笑ったのは久しぶり。
この作者は天才か、もしくは頭がどうかしている人だなぁ、と思いました。
恐らく世界で最も「ツインテール」という単語が出てきた小説だと思います。それだけで、出版する価値があると思います。
そして、そのはじけまくったアイディア力の影に隠れて地味に文章や構成が上手い。いや、地味というのはアイディアのはじけ方に対して地味に見えるだけで、本当は物凄く上手い。たとえば、こういうハイテンションでおバカなお話は、実は最後までテンションを維持するのがとても難しい。ずっと同じようにテンションが高いままだと、読者がそのテンションに慣れたり、疲れたりして、読んでいられなくなる。かといって、テンションを落とせばもっと読めなくなる。だから読者が疲れず、離れない程度に、適度な緩急をつけてやらないといけないのですが、その緩急のつけ方が非常に上手い。
見事な出来だと思いました。
あえて欠点をあげるとすれば、手に取る人を選ぶ作品なのは間違いないと思います。
でも、それでいいのだ、とも思います。万人受けする笑いなどないのですから。

審査員特別賞をどの作品にするかは、迷いましたが、軽快な文章と勢い、笑いのセンスが個人的にもかなりツボだったこともあり、「それは、ついんてーるの異世界」に送らせて頂きたいと思います。
小説の審査員、という初めての経験でしたが「この作品を書いた人と会って語り合いたい!」と思うような、面白い作品に出会えて本当に良かった。
とても楽しませて頂きました。
授賞式では是非、受賞者の皆さんとお会いして、作品について語り合いたいです。
畑 健二郎



編集部講評

 第6回小学館ライトノベル大賞・ガガガ部門に多くの力作をご応募いただきまして、ありがとうございました。
 ガガガ文庫部門には、今年は829本の作品が集まりました。
 ファンタジー・コメディ・SF・バトル・サイコスリラー・恋愛などなどジャンルの枠を越え、驚くほど多岐にわたるカテゴリーの作品が揃いました。
 今回はゲスト審査員に漫画家の畑 健二郎先生をむかえ、編集部と先生による厳正なる審査のうえ、ガガガ大賞1作、優秀賞3作、そして審査員特別賞1作の計5作品を決定いたしました。
 毎回がそうなのですが、ガガガ文庫の応募作にはカテゴリーエラーやジャンルの偏りはまったくといっていいほどなく、毎年バラエティに富んでいる、というのが印象です。
 受賞した5作品も、それを表わすかのように個性豊かな作品ばかりとなりました。
 応募作=デビュー作となることが多いライトノベルの新人賞では「その作品が商業作品として通用するレベルにあるか」というハードルがあることはもちろんですが、受賞作に共通して言えるのは、荒削りであったり挑戦的な作品であっても、どこかに「光るもの」を持っていると強く思わせる作品ということです。
 固定観念にとらわれず、かといって奇をてらうことなく、その作品にしかない「面白さ」を追求している作品が、結果としては最後に残るのではないでしょうか。
 受賞作はさらなる推敲と改稿をへて、新しい作品として5月から刊行されていきます。ぜひ発刊をお楽しみにしてください。
 また、すでに第7回の募集も始まっています。
 個性を持つ作品に新しく出会えますこと、編集部一同、楽しみにお待ちしています。





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