小学館ライトノベル大賞
第7回小学館ライトノベル大賞2

ゲスト審査員 賀東招二 応募総数 936本

大賞
『祝園の短い歌』大桑八代
ガガガ賞
『人形遣い』賽目和七
優秀賞
『王子降臨』手代木正太郎
『ラブコメの魔』木村百草
審査員特別賞
『ノノメメ、ハートブレイク』近村英一

(敬称略)


ゲスト審査員講評 賀東招二
五本読ませていただきましたが、どれも高いレベルで、修正を加えれば現状この業界で出版されているものに充分比肩していると思いました(特に文章などテクニカルな部分で)。『みんな、うまい!』というのが正直な感想です。ただそれぞれの作品で一長一短がある印象で、自分としてもどれを推したらいいのか非常に悩みました。なので、最終選考で落ちてしまった方も実力は充分で、辛抱強く続けていれば必ずチャンスはまた訪れると思って欲しいです。

「面白さ」や「読みやすさ」、「売れ線かどうか」、「将来性」、「キャラの魅力」、「バカさや巧さ」、「話題性」など様々な指標があり、そのどれを重視するかによって賀東自身でも評価がバラバラになってしまうわけなんですが(正直、もうみんなに賞あげちゃいなよ、というか)、今回は賀東自身が普段の仕事で心がけている「基礎力」「手堅さ」「ベタに負けない強い心」などを優先させていただきました。

『ノノメメ、ハートブレイク』はキャラと会話が活き活きしているだけでなく、プロットの組み立て方が地味に真面目にオーソドックスで、主人公のバカさとは裏腹に、実はバカには書けないしっかりした作りなのに好感が持てました。こういうのは意外に難しいのです。

『王子降臨』は文章力や基礎力がダントツだと思いました。バカさもかなりいい感じで、「小姓一人分、王子の方が美しかった」には爆笑させていただきました。ただあれだけたっぷり描いたサブキャラ群が一瞬で蒸発するのは、意図は分かるけどどうなのかなあ、とも思いました。プロット段階で考慮してやって、きっちりそれぞれの役割は果たさせてあげた方がいいのではないかと。生きるか死ぬかは別にして。

『人形遣い』は文章的にはちょっと背伸びしてる感がありましたが、全体のプロットは基本を忠実にしていて良かったと思います。台詞を三分の二に減らして、浮いた頁数でヒロイン二人の蜜月過程をいろんなシチュエーションでじっくり描いた方が良かったです。あと二人の色気も五割増しくらいした方がいいかと。

『祝園の短い歌』は、キャラも台詞回しも個性的かつスタイリッシュで、和歌を使っている設定も面白かったです。ただちょっと付け焼刃なのかな? 和歌の設定が添え物になってしまっている印象があって、そっち方面に明るくない自分としては、ファンタジー世界の呪文とあまり違わない印象でした。

『ラブコメの魔』は、ハーレムラブコメをメタ視する着想、序盤から中盤にかけてのたたみかけるような勢いはダントツで面白かったです。ただ中盤以降は正直行き当たりばったりな印象が拭えず、メタな部分がイヤミっぽく見えちゃって損してるかなあ、と思いました。あと下ネタはほどほどにうまくセーブした方がいいです。特に後半はやりすぎです。おっさんの俺でも胸焼けするレベル。

というわけで、様々な作品がありましたが、今後修正改稿を経て出版されると伺っています。どのようなイラストがついて世に出されるのかも含め、書店さんの店頭で再び見ることができるのを楽しみにしております。
賀東招二



編集部講評

 第7回小学館ライトノベル大賞・ガガガ部門に多くの力作をご応募いただきまして、ありがとうございました。
 ガガガ文庫部門には、今年は936本の作品が集まりました。昨年の応募数から100作品ほど増えた計算になります。
 ラブコメ・SF・バトル・ファンタジーと様々なジャンルの作品に恵まれ、とても楽しい選考会になりました。
 今回はゲスト審査員に『フルメタル・パニック!』『コップクラフト』で大人気のライトノベル作家の賀東招二先生をむかえ、編集部と先生による厳正な審査の結果、ガガガ大賞1作、ガガガ賞1作、優秀賞2作、審査員特別賞1作の計5作品を決定いたしました。
 各作品についての講評に関しては、賀東先生の講評にて代えさせていただきますが、簡単な印象としては、ストレートな作品が多かったように思いました。
 というのも、昨年度の『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』『俺、ツインテールになります。』のような、己の変態性を磨き上げた先に形を成す様な作品はあまり無く、王道の中に、オリジナリティを組み込んでいく作品が目立っていたからです。
 その分、「誰かを楽しませてやろう」という気持ちをより強く感じる作品が受賞作に選ばれる結果となりました。
 新人賞では、受賞作がそのままデビュー作になるケースがほとんどです。そのため、審査基準の中には、「書店さんに並べた時に、他の本に埋もれないか?」という視点があることは否めません。ただ、受賞作に共通して言えるのは、荒削りで、弱点の目立つ作品であっても、奇をてらうことで目立とうとするのではなく、「人を楽しませたい」という純粋な気持ちを全面に押し出していた、ということです。
 その作品だからこそ出せる個性を追求しつつ、しかし読み手のことを忘れていない作品が、結果としては評価されたのではないでしょうか。
  受賞作はさらなる推敲と改稿をへて、新しい作品として5月から刊行されていきます。ぜひ発刊をお楽しみにしてください。
 また、すでに第8回の募集も始まっています。
 個性を持つ作品に新しく出会えますこと、編集部一同、楽しみにお待ちしています。





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