小学館ライトノベル大賞
最終結果発表!!

応募総数1128本の中から厳正なる審査の結果、今回は5作品が受賞!! 刊行予定日も決定!!(ゲスト審査員:渡 航)

ガガガ賞(賞金100万&デビュー確約)

『華志摩さん』 天宮伊佐
7月20日ごろ発売予定
どこか作り物めいた美貌を持つ奇妙な転校生・華志摩玲子。彼女の転入と時を同じくして町では猟奇殺人事件が起こり始める――。

優秀賞(賞金50万&デビュー確約)

『ヒイラギエイク』 海津ゆたか
7月20日ごろ発売予定
淡い恋や罪の意識。誰もが抱える心の痛み。それでも僕は未来に進む。あの夏で、もう一度君と出会うために。

優秀賞(賞金50万&デビュー確約)

『ふあゆ』 今慈ムジナ
5月18日ごろ発売予定
心因性相貌誤認症――あいまいな世界の中で生きる僕の前に現れたのは、少女のカタチをした怪異だった。

優秀賞(賞金50万&デビュー確約)

『満点飾りのがんばり論!』 屋久ユウキ
5月18日ごろ発売予定
人生はクソゲー。この誰もが聞き飽きた文句を俺は地でいっている。リアル弱キャラが挑む人生攻略論ただし美少女指南つき!

審査員特別賞(賞金30万&応募作品での文庫デビュー)

『勇者に期待した僕がバカでした』 ハマカズシ
6月17日ごろ発売予定
勇者の栄誉を小粋に演出! 理想の魔王軍たる秘訣とは……? 魔王軍を舞台に繰り広げられるファンタジー社畜コメディ爆誕!!

(敬称略)

ゲスト審査員講評 渡 航

なぜ君たちはライトノベルを書いてこないのか(褒め言葉)。

今回、最終選考に残った作品を読ませていただき、ふと、懐かしい気持ちを思い出しました。
私が第三回小学館ライトノベル大賞に投稿した『あやかしがたり』も、正直に申し上げて、いわゆる当時の流行に逆行していたように思います。『あやかしがたり』を書いていたときはまさしく大学四年の夏休み、無い内定のまま就職活動を終えようとしていたころです。だからこそ、私を採用試験でいの一番に落とした小学館許すまじという反抗心と、就職できないならラノベ作家になるしかないラノベ作家くらいなら俺でもなれるだろう的舐めプメンタルとが入り混じった結果、当時のライトノベルの流行からは外れた作品ができたのでしょう。
しかし、そうした経緯から生まれた作品が、大賞を受賞し、デビュー。
その後なんやかんやあり、第10回という節目の年にゲスト審査員として招聘いただいたのは、ひとえに多くの方のお力添えやめぐりあわせ、そして、ガガガ文庫の謎の育成力があったからではないでしょうか。さすがガガガ。略してさすガガガ。
そんな、育成のさすガガガ文庫ですので、今回の最終選考で私がもっとも重点的に見させていただいたポイントはライトノベル作家としての可能性、あるいは将来性です。
何度も私自身の話になってしまい大変恐縮ですが、新人賞時点での渡 航というライトノベル作家、およびその作品にあまり大きな期待や評価はなかったのではないかと思います。後々、「売れないのは知ってたけどなんか大賞になっちゃったよね」発言まで飛び出す始末ですよ。おい、マジかよやべぇなガガガ。
そうした経験から、ガガガ文庫の新人賞選考に関わらせていただくうえで、例えこの新人賞作品が市場的に受け入れられずともいつか業界で活躍するであろう作者が執筆した作品を推させていただこうという方針で拝読いたしました。
いずれの作品も良くも悪くもガガガ文庫らしさが光るような、ガガガ作家の片鱗を感じます。
なぜ君たちはライトノベルを書いてこないのか(二回目)。
ですが、率直に申し上げて、文章力、描写力、構成等々の一側面に関してのみ言えば、現在市場に流通している作品群に並ぶ、あるいは凌ぐのではないかと思わされる部分を持った作品も多くありました。
特に、『華志摩さん』は嫌味のない文章に安定感があり、くわえて時折繰り出す一文にも私好みのセンスを感じました。キャラクターの立て方、ことに短いセンテンスやシーンでの描写力には確かな技巧と実力が垣間見えます。また、構成についても手堅く、強いて難癖つけるのであれば、手堅く良くできているが故に、どこか既視感のある筋立てになってしまっていたところでしょうか。この点に関しては、改稿の際に伏線の処理工程やシーン描写の濃淡調整などでより面白くなると思います。全体を通して、完成度の高い作品であり、おそらく現在の市場において多くの人に読まれる作品ではないと思いますが、今後他の作品も読んでみたいと思える方です。

『勇者に期待した僕がバカでした』は、とにかくそのバカバカしくもくだらない筆致が俺好み。その一言に尽きます。展開に派手さもなければ何がどうということもないストーリーで、正直、商業ライトノベルとしてはどうなのかしらと判断に悩む部分も多いのですが、あるいはそれを逆手にとって、語り口の軽妙さとバカバカしさで一点突破していけば、面白い作品を見せてくれる可能性をとても感じます。こういう時は、川岸殴魚以来の伝統にのっとり、審査員特別賞に推すのが適当かと思いました。

『ふあゆ』も、非常に判断に悩む作品でしたが、独特の語り口には目を瞠るものがあります。主人公の高田純次的適当さやセリフ回しもまさしく俺好み。一方で起伏に富んだ展開を構成する力も感じました。ただ、緩急をつけることを意識しすぎているのか、読み手の予想を裏切ろうとするあまり、こちらの期待も裏切ってしまう部分もあり、もう少々エンターテイメントとしての落としどころを探っていく必要性があるかとも思います。

『ヒイラギエイク』は描写力など基礎的な地力に関しては充分にあり、構成についても破綻は少なく、ディテールにもこだわりを感じます。その分、作劇上無駄な部分が膨らんでしまい、その帳尻を合わせるように物語展開が先行しがちで、キャラクターが役割と記号の域をでなかったことが残念でした。特に女性キャラクターはそれが顕著です。情報と話運びの整理、精査をし、キャラクターの人間的厚みを増していく必要があるでしょう。綺麗な筋立てのお話を作るのであれば、その根幹をなす主人公とヒロインが心を重ねていく過程はもっと重要視するべきかと思います。ですが、ラストシーンの美しさは今回拝読した中でも印象的でした。そうした点をもっと伸ばしていただけたらと思います。

『満点飾りのがんばり論!』は今回拝読した作品群の中で一番ライトノベルらしいと感じました。ここで言うライトノベルらしさという部分はあまり肯定的な意味合いを含んではいませんが、ライトノベルとしてのパッケージングのしやすさと商業ベースに乗せるために改稿していく際の方向性とポイントは他作品に比べて非常に明快です。作品として、またそれを作り上げる力量、基礎力、伸びしろは他作品に比べてやや見劣りする箇所が多いように個人的には感じますが、単純に商材として見た場合、最終選考で残った作品の中では、もっともわかりやすく売り上げが見込める気がします。そうした点が他の方々の評価を得たポイントだったのではないかと思います。中身自体は、作品のメッセージ性が明確でコンセプトも大変わかりよい作品と言っていいでしょう。ですが、そのメッセージ性とコンセプトが先走り、物語の展開とかみ合っていない印象が強いです。ディテールの描写や一つ一つのシーンの書き方は問題ないのですが、お話の根幹部分での描写が足りていません。そのため、本来、カタルシスとして用意されている部分も肩透かしの感が否めず、結果、一つのお話として終わっていないように感じます。言いたいことややりたいことはわかりますが、それがわかるだけでした。セリフだけで済まさず、シーンや情景、キャラクターの心情をエピソード、物語として落とし込んで欲しいところです。コンセプトを生かすにしろ、物語を生かすにしろ、構成やお話の見せ方にはまだ工夫の余地があると感じます。また、キャラクターがただ状況の説明と物語を動かすためだけに存在している点が非常に残念です。この点については根本的な改善をするべきでしょう。ただ、70Pに一行くらいの割合で訪れるちょっとおかしみのあるセンテンスは好きです。そうした良い箇所が改稿の際に残っているかどうかは担当編集のみぞ知るといったところですが、今後の改稿と作者の方の努力、ガガガ文庫の育成力に期待しております。

以上、ここまで書きながら、我が身を振り返り、果たして今自分で言ったことがちゃんとできているのか大変不安になっております……。やはりこういうゲスト審査員という役職は大御所の方がやるべきなのではないでしょうか。
ともあれ、今回受賞した皆様、おめでとうございます。審査員の一人として、またガガガ文庫で書くライトノベル作家の一人として、皆様の今後のご活躍をお祈りしております。
ようこそガガガ文庫へ! まだ登り始めたばかりの果てしなく長く険しいライトノベル坂、一緒に駆け抜けていきましょう!

編集部講評

 第10回小学館ライトノベル大賞・ガガガ文庫部門に多くの作品をご応募いただきまして、ありがとうございました。
 ガガガ文庫部門には、今年は1128本の作品が集まりました。一昨年、昨年に引き続き1000本を超える応募作数をいただきましたこと、深く感謝いたします。

 今回はゲスト審査員に、ご自身も第3回小学館ライトノベル大賞でガガガ大賞を受賞しデビュー、現在『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』シリーズを執筆されている渡 航先生を迎えました。編集部と先生による厳正な審査の結果、ガガガ賞1作、優秀賞3作、審査員特別賞1作の計5作品を決定いたしました。

 今回の応募作全体の傾向としては、あえてライトノベルの時流に寄せようとするなどのジャンルの偏りはほとんど見られず、たいへんバラエティに富んでいる作品ばかりであるという印象を受けました。意欲に満ちた、ライトノベルの枠にとらわれない柔軟な作品が多かったように感じます。

 今回受賞した5本の作品は、そのなかでもより秀でていたと言えるでしょう。受賞作は担当編集がつき、改稿を重ねた上で、新しい作品として5月から順次刊行される予定です。ぜひ発刊を楽しみにしていただきたいと思います。

 最後になりましたが、すでに第11回の募集も始まっています。第11回からはWeb投稿での募集も始まり、より多くの方にご応募いただけることを期待しております。そして、来年2017年は記念すべきガガガ文庫創刊10周年の年にあたります。メモリアルな年を飾る、素晴らしい作品に出会えることを編集部一同心待ちにしております。

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