応募総数1263作品の中から厳正な審査の結果、今回は5作品の受賞が決定!! 刊行予定日も発表!!(ゲスト審査員:カルロ・ゼン)
ガガガ賞(賞金100万円&デビュー確約)
『俺はひょっとして、最終話で負けヒロインの横にいるポッと出のモブキャラなのだろうか』 雨森たきび
教室で浮いている温水和彦は、ある日ひょんなことからクラスの人気女子、八奈見がフラれるのを目撃してしまい――。
審査員特別賞(賞金50万円&デビュー確約)
『悪霊術師のデッドエンド』 岸馬鹿縁
死者を蘇らせ使役する魔術。その術者たちを巡る、国家と人、組織と人、そして大切な者を失った少年の物語。
優秀賞(賞金50万円&デビュー確約)
『悪夢屠りのBAKU』 長月東葭
夢を媒体とした通信インフラが発展した世界。大切なものを取り戻すため、少年は身を引き裂かれながらも悪夢を屠る!
優秀賞(賞金50万円&デビュー確約)
『公務員、中田忍の悪徳』 太刀川主
帰宅した中田忍は、自室内でエルフの少女と遭遇。異世界の常在菌を危険視した彼は、エルフを冷凍し破棄しようとする。
優秀賞(賞金50万円&デビュー確約)
『ロストマンの弾丸』 陽
義賊として活動する少女とやり手の運び屋。悪がはびこる街で、異能の二人が出会うとき、真実への扉が開く。
※「大賞」は該当作品なし
(敬称略)
ゲスト審査員講評 カルロ・ゼン
◆全体講評
問題点を指摘するのはたやすく、褒めるのはとても難しいこと。同業者の作品に対してならば、殊更にそうなのだと思います。おまけに、『問題点』とはいってみたものの、そもそもどの尺度でそれを問題点とみなすべきなのか? という点からして相当に悩ましいのです。ちょっと、考えてみましょう。剣は槍ほど長くないし、弓ほど遠距離までは届かないわけです。だから、剣を見て、『槍よりリーチが短いではないか』とかは大体の場合言えるでしょう。リーチの差は間違いなくハンデです。これは、大問題だ。『弓のように、遠くの敵と撃ち合えないはではないか』とか言うのも間違ってはいませんよね。一方的遠くから射撃されるとなれば、もう、問題どころか大欠陥! お話にもなりません!でも、剣は剣の物差しで測るべきだとは思いませんか。或いは、鉄砲が分かりやすいかもしれません。鉄砲こと火縄銃を見た時、『こんなにも高価で数を揃えにくく、弓よりも命中率や連射速度が劣悪で、おまけに雨が降ればすぐに使えなくなる!』と問題点を指摘したとしましょう。これだって、何一つ間違った指摘じゃないですよね。でも、誰もが知っているように、いまじゃ弓より銃が使われているわけです。はっきり言ってしまえば、剣は剣であり、槍は槍であり、弓は弓です。それぞれに、尖った点があり、その尖った点がそれぞれの武器としての強みなのです。ただ物の例えとして、剣やら槍やら弓やら鉄砲やらと出しましたが、ジャンルというのも一つの枠であると同時に縛りにもなりうるのが更に面倒なところ。ハルバードはハルバードですが、『槍』として評価しても変な評価でしょうし、『斧』として評価しても微妙な評価でしょう。『ハルバード』というものを知らなければ、ハルバードを見た時に、槍か斧という物差しでしか評価できない危険性があるからです。そういう訳で、何かに物差しを当てて、評価するというのは中々油断できません。だから何をもって基準とするか? はとても難しい。とはいえ、評価に際して基準が一定であることも望ましいのは言うまでもありません。まして基準がぶれるというのも、それはそれで審査される側には迷惑でしょう。なのに、この講評を書いているのは、コロナ禍の中でのことでもあります。今の感性が、以前とは違っているかもしれません。だから、自分なりの基準を明確にしました。感性で惹かれるのを無視するわけではないにせよ、極力、その作品ならでは長所と短所を見極めよう、と。言い換えれば、ゲスト審査員として、目の前の武器の弱点を腐すあまり、持ち合わせている長所を見落としてしまうことのないようにしようとだけ決めていました。そんな状況で、最終選考に残ったもの5作と、別件で『担当編集の強いイチオシがあった1作』を拝読し、その上で、自分が5作に対して感想を放り投げることになりました。あとは売れたら『最初に見出したのは僕なんだよ』と適当な先輩風をふかすだけですね。
◆ガガガ賞
『俺はひょっとして、最終話で負けヒロインの横にいるポッと出のモブキャラなのだろうか』
原稿としての完成度と、物語の完成度の二つで優れていました。まず、原稿としての完成度からご説明しましょう。新人賞の審査に際してですが、原稿の読み方は普通の読書とは少し違っています。なぜかといえば、『出版される際には、改稿される』という前提があるからなんですね。物語の流れやキャラクターたちは変わらないにせよ、欠点に見えるところは『修正』され、長所に見えるところは『強化』されうるわけです。だから、完成した原稿を楽しく想像しながら、『可能性』込みで読むと言い換えてもよいでしょう。ところが、今作の原稿は最終候補作の中でも特に洗練されていて、その武器がよく磨き上げられていました。物語の完成度というと、あまりネタバレを書くべきではないと思うので、ちょっと表現に迷うのですが……この作品ではキャラクターたちの関係が三角とでもいうべき構図で形成されています。これは自分の主観ですが、『関係が三角の構図ではあるが、必ずしも三角関係を意味するものではない』というのが上手いな! と。偶に、構図を意図的に崩されるところもあり、どこかで『キャラクターとして不快な存在が飛び出し、読んでいてストレスになるのでは?』と危惧も感じたのですが、読み終えた時に『まさか、こうもスムーズに駆け抜けるとは!』と驚愕したというのが本音です。予見可能性があるようで適度に緩急をつけてくる物語運び、そして何よりも『どのキャラクターにも、明確な不遇さがあるようでないバランス感覚』には惚れ惚れとせざるをえません。次点となると、しかし、相当に悩みました。お世辞ではありません。どの作品も長所と短所がそれぞれに独特で『どれを重視するか?』という点で好みの差が強すぎました。剣を並べて、どれが一番切れるかを比較するのであれば、簡単でしょう。ですが、剣と槍と弓を並べて比較するとなれば、悩ましいものです。
◆審査員特別賞
『悪霊術師のデッドエンド』
物語としてはオリジナリティを十分に持ち、しかもその独特の世界観や設定をとっつきやすく読ませてくれる原稿でした。上手いなぁ! と羨ましく思うほどです。異世界転生/転移という所謂なろう系では俗に『テンプレ』と呼ばれる類似する舞台世界を用意することで、世界観理解に読者が要するコストを強制的に排除するという力業を取ることがあります。これはカロリーのすべてを、ただ物語とキャラクターへ集中させるという大きなリターンが得られるからです。逆に、物語と世界観の両方を読み手へ無理なく同時に提供するというのは、本来であれば相当な難事です。ところが、その道を歩みながらも、本作は読み手が自然に入っていける原稿を構築していました。作者が構築した舞台世界への導入やキャラクターの紹介は、鋭利な切れ味そのものと評するほかにありません。色々な設定を咀嚼しやすい形で調理し、読者へ食べ応えがありつつも、一切雑味のないすっきりとした物語として提供するというのは一つの技法です。これは、この先生の武器として磨かれていくのだと思います。なので、こういう風に書くと『欠点がない』というようにも見えると思うのですが、ただ、著者の方の性格か、育ちか、気質が優しいのかどれなのかは勝手に想像するばかりなのですが、悲しいぐらいに『悪』の掘り下げが弱いのです。これが愛の物語であるならば、おそらく、この方向性でも問題ないのでしょう。ですが、悪の物語として読むと、『悪役』の掘り下げは検討の余地があるように自分は思いました。正直なところ、一番、惜しいなと感じるのが今作です。それでも、あえて次点を……ということであればこの作品だろうとなる一作でもありますが。
◆優秀賞
『悪夢屠りのBAKU』
しいて自分の好み(=感性)だけで言うのであれば、悪夢屠りのBAKUを贔屓するかなぁ……とも迷いかけたのですが、世界観が自分好みである一方、世界観の説明/導入カロリーという部分には相当程度のぶん投げが見られるのも事実です。選考に際しては、この点がどうしても気になりました。架空世界と現実世界という二つの舞台世界は、昨今のVRMMO小説や異世界を往復するというタイプの小説で一般的にみられる構図ですね。一般的な設定とはいえ、そこからどのような世界を構築するか? はそれぞれ作家なりの技巧や工夫が見られるところです。本作もこの作品ならでは設定や奥行きは眩しいばかりでした。行間や何気ない登場人物の言動を通じて、世界を描くというのは、確固とした世界観がなければとても難しいことです。
だからこそ、著者の頭の中では明瞭に描かれていることが、テキストを通じてどこまで読者の手元に届くか? という視点で見ると気になってしまうのが残念でなりません。実はこれ、自分も指摘される部分です。他人のそれは気がつきやすく、自分のそれは気がつきにくいわけですね。
言ってしまえば、悪夢屠りのBAKUは、鍛冶屋がオーダーメイドで作り上げた自分のための最強の一振りです。著者が読者であるならば最高の作品であり、あるいは著者と共通の関心事項を持ち合わせている人間にとっては堪らなく歓迎されるでしょう。それら優れた長所は、同時に、どうしても読み手を選んでしまう。鋭利であるがゆえに、諸刃の剣を持ち合わせているようにも感じました。
◆優秀賞
『公務員、中田忍の悪徳』
何をもって評価するのかという点で、全く印象が異なる作品です。長所と短所が同居しているといわざるをえません。たぶん、鉄砲を初めて見た弓の名人のような顔をしています。最大の長所は、『ファーストコンタクト』というところの徹底的な掘り下げにあります。異世界からの住人と接したとき、果たして、どのように行動するのか? 『出会う→物語が始まる』という構図はそういう意味で既存作品とも似ているのかもしれませんが、似ているのはそこだけともいえます。徹底して、ファーストコンタクトを掘り下げていくという姿勢は、強烈なオリジナリティの塊に他なりません。とびぬけて、強力なパンチ力でした。出会ってからのやり取り―やり取りというか、コミュニケーションというか、文字通りに手探りで関係を構築してく部分には書き手なりの個性と工夫が輝いてもいました。キャラクターの作り込みだって、『この世界の住人』と『別の世界からの住人』という二つの異なる価値観のキャラクターを無理なく一つの部屋に落とし込むのは、相当に工夫されたのだろうなと技を見る思いです。同時に、ある種の短所も『ファーストコンタクト』に徹しているが故のものと感じられました。何を問題点とみなすか? という冒頭のところに戻るのですが、ファーストコンタクトという視点で見る場合、その掘り下げ度合いは完璧そのものです。ですが、起承転結という視点で見ると、前半にあった物語の勢いがどうしても後半では保てなくなったように感じられるのです。文章力の高さと設定の練り込みが巧みなので、面白さが途絶えるわけではありません。ですが、メディアミックスを前提としなければ面白さを広く伝えるには適していないのではないか、とも感じてしまいました。
◆優秀賞
『ロストマンの弾丸』
きわめて評価が悩ましい作品です。こういうジャンルが好きな自分としてはかなり惹かれもしました。(結末部分の味の良さや、キャラクター描写という点では相当に練られてもいます)。荒廃した世界を舞台としつつ、日常と非日常の隣接領域を描くという趣旨は一つの武器として確かなものでしょう。繰り返しになりますが、読み終えた時、ラストの描写には『ほう!』と膝を打ったほどです。登場人物たちはいずれも魅力的で、それぞれの利害が異なっているという点を巧みに描写している。この『異なる目的で行動する登場人物らの掘り下げ』という点では、今作が最も優れていると言っても過言ではありません。世界観、キャラクター、物語のバランスを極めて絶妙に整えているとすらいえます。ただ、オリジナリティの追求という点だけ消化不良と評するべき点がありました。言及するべきかどうかも迷ったのですが、広江礼威先生のBLACK LAGOONから相当以上に影響を受けたのだろうな、と。ロアナプラの世界観と、この東京の世界観を比べた時、はたして武器としての独自性をどこまで世界観から見るべきか? となってしまい、一瞬のうちには判じかねました。これを習作としてみれば、100点満点で150点でもおかしくない力作です。この先生以外は書けないものを……という視点で論じると、おそらく、この先生以外には書けないでしょう。ですので、これだけ書ける書き手の先生を相手に変な話ではありますが、『書き手なりの個性』という点がもったいないレベルで埋もれてしまったと感じました。感性としては、こういうの好き! となりつつも、評価する物差しを持ってきた途端に『えーと、どう評価しようか?』となった作品です。
編集部講評
第15回小学館ライトノベル大賞・ガガガ文庫部門に多くの作品をご応募いただきまして、ありがとうございました。
Web投稿での募集と合わせて総数1263本と、今年もたくさんの応募作数をいただきましたこと、深く感謝いたします。
今年はゲスト審査員に、ライトノベル作家として第一線で活躍されているカルロ・ゼン先生を迎え、編集部とカルロ先生による厳正な審査の結果、ガガガ賞1作、審査員特別賞1作、優秀賞3作の5作品を受賞作に決定致しました。
受賞作の講評につきましては、カルロ・ゼン先生の講評にかえさせて頂きますが、全体的に見ても今年の小学館ライトノベル大賞はハイレベルな争いでした。応募総数1263作品というのは過去2番目に多い数字です。それだけ作品のジャンルや、個性もバラエティに富んでいて審査も難航しました。普段なら一次審査を通過するレベルの作品でも、残念な結果に終わったというのは少なくないように思います。そういった作品に足りなかったのはあと一押しの“突破力”です。感動を誘う文章力や、唯一無二の個性、読者を楽しませようとするエンタメ性など、何か1つでも光るものをあれば、それは読者の常識や、固定観念を覆す“突破力”を伴って、印象に残る作品になります。皆さんが目指すプロという世界は、数多の文才が犇めく競争の世界です。その中で生き残っていく唯一の術も、自らの文章の“突破力”です。今回、残念な結果に終わった方々も、改めて自分の作品と向き合い、再び勝負できる作品を考えて、次回応募してきてくれることを心より願っています。
そして、今回受賞した作品5本は、激戦を勝ち抜いた並々ならぬ突破力をもった作品となっております。これから担当編集と組み、改稿を経て、プロの作品として7月から順次刊行される予定です。ぜひ発刊を楽しみにして頂きたいと思います。