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3 キャラ語り by 浅井ラボ × 担当編集

担当 ということで、今回は [ され竜 DD ] について、おしゃべりでございます。

浅井 自分の作品について語るのは恥ずかしいです。羞恥プレイですよ。

担当 いいではないかいいではないか。

浅井 担当さんも、自分をわりとめんどくせーキャラ設定にしましたね。

担当 浅井さんの作中の台詞を使ってみただけです。ということで、登場人物に焦点をしぼって語ってもらいましょうか。

浅井 なるべく頑張って答えてみます。

担当 では、主人公のガユスギギナからですが、どういう登場人物なんでしょうか?

浅井 普通の人と変態です。勝ったッ! 第三部完!

担当 他社の漫画オチでしかも短すぎます。もっと長く答えてください。

浅井 ではとりとめもなく行きますよ?

担当 とりとめがあったことがありますか?

浅井 耳に手を当てたり離したりして、あーあーとか言っていていいですか? ええと、私は登場人物から作らず、ストーリーに要請される役割で作るので話しにくいですね。

担当 とすると役割として、普通の人と変態だと?

浅井 どこか現実に関わるような話に必要な主人公として、ガユスは普通の人として作りました。たとえば、正義のために金や名誉にとらわれず、危機に雄々しく立ち向かう、なんて英雄は現代で存在することは無理でしょう。卑しい街を誇り高き騎士が行く、という古典的ハードボイルドですら死滅し、今では卑しき街を卑しきものが行く、でしか成立しません。

担当 成立しませんか。

浅井 できにくいですね。かといって他人に苦痛を与え、人殺しを楽しむ冷酷な悪人も平均的ではない。悩んで迷って逃げて、金に困って女性問題をかかえて浮気もし、善であり悪であり、またどちらでもあり、どちらでもないという、現代人の平均像があるだけです。

担当 ガユスが普通の感覚を持った現代人とすると、浅井さんには変態と言われていますが、ギギナはヒーローのような気がします。

浅井 そのとおりですね。強く美しく、勇敢という神話の時代にあった英雄の一面の造型です。弱者である現代人のガユスから見れば、訳分からない存在です。漫画には多いですが、実際にいたら変態ですよ。

担当 バトル漫画の登場人物ですね〜。

浅井 あとは家具マニアにしたり婚約者に弱かったりとかわいさを添加し、たまに迷ったり、道徳的不備として戦闘を喜ぶ残酷さを足してみました。先に言った役目としては、主人公と常に反発しあって絶対に仲良しにならない存在です。

担当 驚くほど仲が悪いですよね。常に悪口を言いあっていて、歩みよらない。作中の言葉でも敵か味方が分からなくなるときがあるようですし。

浅井 これはデビュー後に三雲岳斗さんに聞いて感心した言葉ですが、人物たちが動かないのはみんなが仲良しになって誰かの意見にうなずくだけになって、対立軸が消えるからだそうです。だから全員の仲を悪くさせるといいのです。

担当 なるほど、ではジヴーニャはどうでしょう?

浅井 普通の人の感覚を忘れないようにジヴーニャがいるわけです。ただ私の癖で普通すぎてもつまらないので、ちょいと変な精神にはしました。

担当 子豚で黒き魔女皇である黒ジヴ様ですね。

浅井 心を折ることにかけては彼女が最強です。言葉とルールで人の心を折ることができるのです。

担当 新キャラクターでアーゼルテュラスという女性が増えましたが、こちらはどういう役割で?

浅井 あー、なんというか女性や一般人が少ないなと思って足してみました。私や普通の人と同じように、役割がないという役割です。

担当 さっき言われたように普通の人の感覚を出したかったということですね。

浅井 そです。なんというか旧版は華がなかったですからね。で、アーゼルは巨乳キャラとして登場です。

担当 巨乳が好きなんですか?

浅井 乳はすべからく平等で、愛すべきものです。実は聖書にある乳と蜜が流れる約束の地、カナンは女性の胸のことなんですよ。

担当 聖書を書いた人たちも、数千年後にそんなバカ解釈が出るとは思わなかったでしょうね。

浅井 斬新と言い替えてください。あとライトノベルなのに女子高生が出ていなかったので、テュラスを膨らませてみました。

担当 よく女性キャラがリアルな造型だと言われますが、どうなんでしょう?

浅井 リアルな造形、とは少し違うと思います。

担当 というと?

浅井 本当にリアルに作ると、現実と同じになるので、フィクションいらないです。現実におもしろくて魅力的な人物なんて、そうそういませんよ。

担当 でも、女性に共感される女性キャラも多いようですよ?

浅井 まぁ異性はカッコ良かったり美人だったりすれば疑似恋愛感情でゴマカせます。男性にとっての男性キャラは基準が厳しくないのですが、女性にとっての女性キャラは『そんな女などいるか』と思われやすい、と思っています。いや、もちろんある程度は都合のいい存在にはしますが。

担当 そういう人物造型をする方法としてはどういったものでしょうか?

浅井 どの人物にしろ進化生物学や社会生物学的な基盤から演算して作っています。

担当 なかなか聞かない作り方ですね。

浅井 自分の経験や観察なんてたかが知れているので、学問に頼っているだけですね。たとえば生物としての人間は、ここ十万年ほどたいして変わっていません。喜怒哀楽のシステムや、遺伝子保持のためにセックスを好んで生き残るために暴力的という傾向は、原始人も現代人もほぼ同じように脳と遺伝子に刻まれています。

担当 脳と遺伝子から人物を作る、ってマッドサイエンティストみたいですね。

浅井 物語の作者は、程度の差はあれ心理学者みたいな性質があるはずですよ。で、生物として変わっていないから、二千年前の物語でも、現代人が理解し共感できるわけです。

担当 今でもギリシャ悲劇やシェイクスピアは読まれますものね。

浅井 それに関連したことを言えば、進化心理学だかの本に引用されていたバーナード・ショーの言葉で『シェイクスピアは良心などもっていなかった。私ももっていない』というものがあります。異常者の告白ではなく、個人的には物語の語り手はあるがままの世界、そして人物を捉える必要があり、必然性には作者でも逆らえないということだと解釈しています。

担当 生物としての現実としての人間を無視しない、ということですね。

浅井 また生物としての人類は同じでも、それぞれの時代で社会や世界は違います。だからこそ、それぞれの時代での新しい物語が常に紡がれると思いますし、だからこそ私のようなものでもその端っこに参加できているのだと思っています。

担当 敵役や悪役も人気がありますよね。敵役ながら、ニドヴォルクは哀しいし、レメディウスイムクアインには同情する人も多い。モルディーンはライトノベルには珍しい政治家タイプの人物ですしね。

浅井 分かりやすい話が好きなので、対立軸を出すために敵を出します。しかし、私は超能力者たちが絶対的に邪悪な敵と戦う、という話は苦手なんですよ。自分に無関係すぎて興味がもてない。

担当 そういえば [ され竜 DD ] での争いは、常に人と人ですね。もしくは人の心を持ったものと戦っています。

浅井 フランシス・フクヤマという学者が言ったように、大文字の物語、フランス革命に代表されるような大義のための闘いがほぼ消えました。残ったのは、政治や経済の現実的な利益の闘いですね。そうでなくても、現実にはある程度邪悪な人間はいても絶対悪のような敵はいないし、自分たちが正義だとはかぎらない。むしろ敵のほうが正しい場合すらある。

担当 それは相手が人間であるがゆえに出てくることですね。

浅井 考えてみれば、敵役には社会や世界の業を背負ってもらっていますね。またその複雑さが、古代から続く物語のおもしろさだと思っています。

担当 あれ? 今まで一番まともに語ってくれていますね?

浅井 げー、それは地球の大ピンチだ! えーと、将来は犬のボトムブリーダーになって選りすぐりの駄犬を作りたいです。これでいつものようにバカっぽくなったはずです。

担当 あまり下げすぎても逆効果ですよ?

浅井 ギャフン、ってオチはどうです?

担当 今時そんなオチは誰もやっていませんよ?

浅井 だからそれは斬新と言い替えて……。

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