中沢健先生による小説『初恋芸人』が映画化! 本作にて映画初主演を務めた原嘉孝さんに、撮影時の裏話などをたっぷり聞きました!
かっこよさを封印! こだわりの役作り

――売れない芸人を演じていますが、「売れてなさ」を表現するにあたって意識したことはありますか?

自信が無かったり、コミュニケーションが上手くなかったりするんだろうなと思ったので、話している相手の目をずっと見ないようにしたり、背中を丸めて自信の無い歩き方をしたり。あとは、自信の無さから嘘をついてしまう場面では、瞬きを多くすることを意識しました。漫才面でいうと、もう練習でしたね。一緒に漫才をする相手だったハニトラ梅木さんからの「賢治はこういう間の取り方はしないと思う」とか、(芸人さんとしての)実際のアドバイスを叩き込んで叩き込んで…。「鋭くツッコんでほしいところを全然鋭くいかない」とか、(想像とは)ちょっと逆を行くような、そういう賢治の感覚を梅木さんの力を借りながら掴んでいきました。

――賢治の走り方も印象的ですが、そこでも「自信の無さ」を意識した?

そうですね。いつ転んでもおかしくないような、あまり手を振らない感じとか。つま先で蹴ってない、ちょっとベタベタ走る感じを意識しましたね。3パターンくらい実際に1人で走った気がします。姿勢とか、「このくらいだろうなぁ」って鏡を見ながら練習しました。

――実際の原さんで走るとかっこよくなっちゃう?

(かっこよく)なっちゃうので!(笑)

――もどかしい恋が描かれた作品ですが、キュンポイントを挙げるとしたらどこですか?

もどかしさもありつつ、賢治のピュアがゆえの一面。素直に気持ちを伝えられないけど、それでもなんとか必死にデートに漕ぎ着けようとしたり、人に相談したり。経験が無いながらも、ピュアに恋しているなと感じてキュンとしました。

――好きなシーンはどこですか?

(賢治が働いている)タクシーの会社で、ベンチに座りながら(ハニトラ)梅木さんに相談するシーンがあるんですけど、同僚だからかちょっと気を許せているのが分かる瞬間で。そこは賢治のギャップを見せられるシーンだと思っていて、「同じ仲間にはこう強く出られるんだ」みたいな、人間らしさが見えるところが良かったですね。

カップラーメンにめっちゃ緊張!?

――撮影中に嬉しかったことは?

因島に行ったこと! 因島で撮影を終えたので割と時間がたっぷりあって、堪能できましたね。1人で銭湯にも行けました。因島って、すごく派手な観光地っていうよりは、ゆっくりと時間が流れる町って感じがするんですよ。商店街のおばあちゃんの声だったり、学校のチャイムだったり、港の工事の作業音だったり……「町」を肌で感じられるというか。そこに(賢治の)実家がある設定だったので、どんなところで育ったのかを実際に感じられたのが良かったですね。

――美味しいものとか食べたんですか?

何食べたっけな? あ、海鮮食べましたよ! 海鮮と日本酒ですね。

――逆に大変だったことは?

カップラーメンをこぼすシーンがあるんですけど、あれをいかにわざとらしくなくこぼすかっていう。本当に手が当たっちゃって……みたいな。そこは、まずは空の状態で何テイクか取り直しましたね。汁をこぼしたのにNGカットになったら、絨毯がラーメンだらけになっちゃうので、めっちゃ緊張感ありました。

――役は撮影前にしっかり作っていくタイプですか?

できることは全部やります。あとは共演者の雰囲気やセットを見て(役を作る)。「こんなに汚い部屋で賢治は生活してるのか」とか、実際の現場に入ってみないと分からないような外的要因で役が固められていく部分もあるので、撮影が進めば進ほどって感じですね。

撮影時に一番難しかったことは……

――夏目監督とのやりとりで印象に残っていることはありますか?

僕は声が低いので、どこか自信があるように見えちゃったり、どっしりとした賢治に見えちゃうところがあって。1回目の本読みのとき、特に声を高くしたりせず僕が思う賢治を演じたのですが、そういう話になったので(役を)作り直しました。声の高さで見え方ってこんなに変わるもんなんだなと。それが役作りで一番最初にしたことなので、印象に残っています。

――他に記憶に残っている監督とのエピソードはありますか?

賢治の感情を表すときに、(賢治が)怪獣になりきるシーンがあるんですけど、スーツアクターは別の方がされているので、僕は声だけ別で録っていて。監督と話し合いながら録っていたのですが、「“うわぁー!”の違うパターンちょうだい」とか「もうちょい苦しい感じ!」と言われて…それが一番難しかった!(笑) そういうシーンが何か所かあって、1か所5パターンくらい録りました。

――原作者の中沢さんとオーディションシーンなどで共演されていますが、撮影時のエピソードや印象に残っていることがあれば教えてください。

役者としての出役は多分あんまり経験がないと思うので、NGカットは出していたんですけど(笑)、でも怪獣について語るシーンの熱量と説得力が誰よりもありましたね。作られていない内側から出る熱量がすごくて、さすがだなぁと思って見ていました。

――涙を流すシーンが予告動画にありますが、実際に泣いているんですか?

泣いてました。「嘘ついてたじゃないですか」って理沙に言うシーンですよね。そこは監督に「そのセリフだけでは涙を流せないと思う。1、2分前のセリフから長回しでやりたいです」ってお願いしました。「目薬とかはさしたくない!」って(笑)。

――何テイクかした?

1回リハをしたのですが、リハから涙が出ちゃってたのでまずいまずい…と思いました。何回もは無理じゃないですか、人間って。でもなんとか集中して次の本番のOKテイクで、またサイズを変えて…2、3サイズ撮ったのかな。無事に全部泣けました。泣くことが別に正解とは限らないですけど、あの場合、賢治は泣いても良いなと思ったので。

――俳優さんによっては、涙流すのが自由自在な方もいますが原さんはいかがですか?

いやぁ、なんか得意だとは思われてるんですけどね。世間には。原はすぐ泣く、みたいな(笑)。タイプロの時もときもそうでしたけど。別に得意なわけじゃなくて、感情がグッて入っちゃうと(泣けます)。タイプロは自分の人生がかかってたときなので、そりゃそうなるわけで。そのぐらいグッてなる感覚を役でもやらなきゃいけないと思うと、下準備をしないと泣きには繋がらないですね、僕は。

timeleszに感じた、もどかしさ

――舞台挨拶にて、賢治のことを「もどかしい」と仰っていましたが、原さんご自身が最近もどかしいと思ったことは何ですか?

(timeleszの)年下メンバー2人、橋本(将生)、猪俣(周杜)がこの間お芝居に挑戦していたのですが、「もっと聞いてきてくれよ!」と思いました。

――アドバイスをしたかった?

あはは! したかった(笑)。したい自分がいますね。そこはガツガツ来てほしいですね。サクサクくらいで終わっちゃったので、またチャンスがあれば伝えたいと思います。

――本作の撮影はtimelesz加入前とのことですが、その後、グループへの加入という原さんのキャリアにおいて重要な時期を経て、初主演映画が公開されることとなりました。その点に関して、心境はいかがですか。

映画の真ん中を張るのは初めてでしたが、timeleszのメンバーになって割とすぐのタイミング(で主演映画の情報が出た)ということもあって「timeleszで主演をやる人がいるんだ」と少なからず思ってくださった方もいると思うので、それはグループに還元できる1つのことだなと。撮影当時は俳優一本でやっていく覚悟をしていた時期で…でもこうしてtimeleszのメンバーになれたことで、おそらく何倍ものお客さんに作品を届けられることになったのかな、と思うと嬉しいです。

――演技のお仕事をするにあたって、大切にしていることや目標はありますか?

“その場に生きる”とか“存在する”役者になることを目標にしているんですけど、そうなるためには、セリフを覚えて状況を理解している程度じゃ無理なんですよね。セリフがちゃんと自分の中に落ちきっていて、関係性も完璧に整理できていないといけない。映像作品は特に、その日初めての役者さんと会話をしなきゃいけない状況もあって。僕はもともと舞台畑にいたので、稽古を挟まず、相手の出方も分からないまま役を作って現場に持って行かなきゃいけない作業がまだ慣れない部分があるんです。でもそこは、やっぱり逃したくない。映像の中で“生きている”、“存在している”俳優さんってたくさんいるじゃないですか。そのほうが見ている方ものめり込めると思うので、そういう役者を目指しています。

憧れの存在・松岡昌宏だけに見せた弱み

――他の俳優さんに言われた「心に残る一言」はありますか?

お芝居を始めた頃は、言い方とかをかっこつけちゃうところがあったんです。でも、劇団☆新感線の舞台で尾上松也さんと共演していたときに「もっと自由にやってみれば」「もっと振り切って良いよ」と言われたことがあって。「新感線みたいにエンタメ色の強い舞台は振り切らなきゃ」と仰ってくださったのはすごく印象に残っています。

あとは大原櫻子さんと俳優として仲が良くて、映像とかも見てくれているんですけど「もっと何もしなくてもいいんじゃない」と半年前くらいに言われて、確かになぁと思いました。何かをしようとすると演じちゃう…演じ色が出ちゃうんですよね。“何もしなくていい”くらい役を落とし込めるようになるためにも、俳優仲間たちから刺激を受けながらまだまだ成長していきたいなと思っています。

――所属されているグループや事務所には、俳優として活躍されている方が多くいらっしゃいますが、「こんな姿になりたい」と思っている方はいますか?

松岡(昌宏)くん。共演もしていますし、プライベートでもお世話になっているので。あの等身大の感じがやっぱりかっこいいなって感じますね。キャラとかじゃなくて、男気がすごくて、頭も切れて、プロフェッショナル。知らない分野は無いんじゃないかっていう。みんなが兄貴って慕いたくなるような存在って、めっちゃ憧れますね。

――親交は深いんですか?

舞台で共演させてもらったのが4年前ぐらいかな。そのくらいから、「年末の事務所のコンサートとか出たいんですよ」とか相談してました。今思えば、唯一そういうのを話してた先輩かもしれないですね。プライドもあったけど、「本当はやりたいんです」って弱みを見せた先輩というか。

――最後に、ゆうばり国際ファンタスティック思い出映画祭、ヌーヴェル・エトワール賞のベル・アクトル賞を受賞されましたね、おめでとうございます! トロフィーを手にした感想を教えてください。

ずっしりしてましたね。グループでいただいたトロフィーはあるんですけど、自分に向けての賞は初めてなので、特別な1回目になりました。自信に繋がりますよね。評価してくれた方がいるって。役と向き合ったこととか、みんなで作り上げた時間っていうものが、このトロフィーに凝縮されている感じがします。思い出として、しっかり家に飾ろうと思います。

原嘉孝さん、ありがとうございました!
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©「初恋芸人」フィルムパートナーズ ©中沢 健/小学館