・ガトランド王家が統治するガトー島の王国。人口48万7千人。市民の95%が猫耳族(ミーニャ)、残り5%が王国に帰化した人間。奴隷を含めた人口は百五十万人を超える。漁業と交易が主産業。大型帆船を15隻所有する海運国。葡萄海の出入り口「三叉海峡」を扼する要衝に位置し、南北大陸の交易品の集結地として、島全体が市場といえるほど賑わっている。
・聖ニーナ教を信仰する。ガトー島には聖ニーナ聖堂が多くあり、命名、結婚、葬式は必ず聖ニーナ教の神父の立ち会いのもと行われる。
・南国の花と香辛料、潮風の香りが町を包んでいる。「ガトランドにないのは雪だけだ」と評される
・ガトー島は水にも恵まれ、34もの貯水池があり、潅漑設備の整った耕作地ではブドウ、オリーブ、オレンジ、トマトなどが栽培されている。
・通貨は「ベニー金貨」「ディドル銀貨」「ステファノ銅貨」。現代の価値に置き換えると、ベニー金貨一枚、100万円。ディドル銀貨一枚、1万円。ステファノ銅貨一枚、100円。
・南方大陸(サウスディア)から輸入した絹、毛織物、毛皮、小麦、果実、香辛料、染料、貴金属、奴隷、塩漬け肉などをガトー島で加工し、それらを輸出して財を為している。輸出品は、香水、船舶、織物、金属製品、ガラス工芸品、葡萄酒、戦争奴隷など。
・債権を発行して大型武装商船の建造費にあてた最初の都市国家でもある。発案者は七々原義春宰相。
・全ての交易品はいったんガトランド王国を経由し、輸出5%、輸入5%の関税を課する。ガトランド王国に無断で三叉海峡を通過するものは密輸船とみなし、拿捕する。
・ガトランド王国内で取引をすれば輸入の関税が減免されるため、葡萄海の商人はガトランドへ集まってくる。国内で商う商品はいったん保税倉庫へ収め、輸入した商人は関税を支払ってから、葡萄海の商人へ売り渡す。葡萄海の商人は購入額の2%を関税としてガトランド王へ支払い、自国へ持って帰る。
・ガトランド王国に属する組合は関税優遇措置を受けている。そのため経営幹部をガトランド王国の代理人に代えて王国の組合員となり、優遇を受ける他都市の組合が多くある。
・砂糖と水飴を煮詰めてドライフルーツやナッツと混ぜたお菓子「ガトー・ヌガー」が有名。ほかに鮎の塩焼き、石鹸、チーズ、蜂蜜、ワインなどが名産。
・聖ジュノー正教会に認可を受けた、騎士団を名乗る宗教団体。団長イリアス。副団長アイオーン、ルカマキオン。常駐騎士三百名。常備兵四千五百人、最大動員兵数十万人。元々、騎士の家柄の次男、三男の受け入れ先として誕生し、聖ジュノー正教会を後ろ盾にした免税特権により勢力を発展させてきた。本拠地であるアテナ島には「コロシアム」があり、屈強な奴隷剣士を戦わせて見世物にしている。
・葡萄海世界の諸侯から土地の寄進を受けて勢力を拡大。複数の城・砦・要塞を所有し、貸金業、現金や貴重品の運送業、貸金庫から利益を得ている。領民の収入の十分の一を「教会税」として寄進させる一方、黒薔薇騎士団の収入は非課税とし、莫大な富を背景に下顎半島の領主にカネを貸し付け、担保にした領土を「寄進」というかたちで奪った。現在、下顎半島の主要都市は黒薔薇騎士団に事実上従属して生きながらえている。
「上顎半島(グラナディオ)」に位置する七つの都市による同盟。人口五百三十万人。上顎半島は峻険な山岳地帯が七割を占め、都市間の交流が難しく、文化的発展に差異が大きい。都市ごとに主立った人種、種族の違いが大きく、猪と人の特徴を併せ持つ「ヴォーグ」族、同じく犬に似た「バウワー」族、兎に似た「ネルフィ」族が人間と共に市民権を得て多く暮らしている。
・正規軍の軍服は赤地に金の縁取り。各都市の常備軍は、七名の代表者の合議制「七人議会」によって運営され、非常の際は軍事を司る「執行長官」が七都市から徴集された兵を率いて出撃する。同盟を組んではいるが「統制」の概念が無いに等しく、軍隊が通過した街は徹底的に略奪され、戦場では執行長官の命令を無視して各都市の部隊が勝手に行動するため、黒薔薇騎士団や四都市協商からは「盗賊の集まり」と揶揄されている。
「下顎半島(アポロディオ)」に位置する四都市の同盟。人口三百八十万人。四都市全てが聖ジュノー正教会の支配下にあり、黒薔薇騎士団に領有されている。もともとは四都市とも地元の有力者が統治していたが、借金の返済、教会税の減免、黒薔薇騎士団の軍事力などを目当てに自らを正教会に寄進し、従属することで生きながらえている。市民の九割が人間で、一割が亜人。
・河と耕地に恵まれ、潅漑も整い、農業が盛ん。小麦、大麦、ライ麦、オート麦などの穀物がよく育ち、「葡萄海の穀物庫」とも呼ばれている。
・軍服は青地に白銀の縁取り。非常の際は四都市から徴集された兵が黒薔薇騎士団長によって統率され、戦地へ赴く。上顎半島軍に比べると、日頃から同じ規律での訓練を受けているため統制が取れている。ただ徴集兵は農民が大半を占めるため、収穫期をまたぐ戦争はできない。
東方の騎馬民族。定住の概念を持たず、放牧と略奪によって生計を立てる「移動式国家」。古い時代から人間と魔物と亜人が混じり合い、葡萄海周縁では見られない種族が多くいる。約五百年に及ぶ魔王統治時代においても、ジャムカジャ族だけは魔物の襲来をはねのけ、逆に魔物の血を自らの血脈に取り込む離れ業をやってのけている。ジュノー暦1790年代においてもジャムカジャ族の脅威は健在であり、葡萄海列強も常にジャムカジャ族の動向を探っては、襲来の予兆を掴もうとしている。
本隊から切り離された支隊3~5万がツェペリ山脈を越えて葡萄海へ攻め入ったことが二度ほどあるが、いずれも本国との連絡の困難さから支配した土地に定住することを余儀なくされ、長い年月のうちに騎馬民族としての血脈が薄まり、葡萄海の人口に飲み込まれるかたちで消滅していった。
レッドケープと同じく、「三叉海峡海空戦」に勝利したガトランド王国が獲得した葡萄海の「上顎」。レッドケープと異なって、平坦な岬が海峡にせり出しており、岬の突端に砲台が設置されている。この砲台も空濠や囲壁、砦など複数の防御施設に守られ、「グレイケープ要塞」を構成している。
レッドケープ要塞とグレイケープ要塞の砲台は、三叉海峡を升目に区切った海図の座標で照準をつけられるため、砲撃の精度が非常に高い。ガトランド飛行艦隊も海峡周辺空域を遊弋(ゆうよく)しているため、通常船舶が監視の目をかいくぐって葡萄海を航行することは事実上不可能となっている。
葡萄海の出入り口「三叉海峡」の「下顎」を形成する。1780年(物語開始の10年前)、「三叉海峡海空戦」において葡萄海連合軍に勝利したガトランド王国は、講和会議によってグレイケープとレッドケープの領有権を得る。「三叉海峡」の「下顎」を扼するレッドケープ要塞は、ジュノー暦1789年10月(物語がはじまる半年前)に、ダダ王が完成させた。グレイケープ要塞とレッドケープ要塞が完成したことで、ダダ王はかねてから念願であった「三叉海峡通行税」の課税に乗り出し、葡萄海列強を追い込んでゆく。
レッドケープは標高六百メートルほどの山岳が海峡へせり出しており、浮遊圏のある標高五百メートル地点を切り開いて小さな空港が敷設されている。また、標高百五十メートル地点を切り開いて海峡の最も狭まった海域を射程に収める砲台が設置され、海峡を通る船を常に監視している。この砲台と、それを守るため山肌に設置された複数の防御施設を総称して「レッドケープ要塞」と呼んでいる。
レッドケープの砲台には、砲弾を加熱するための「窯」が存在する。砲撃の際には専用の樋(とい)を伝って真っ赤に焼けた砲弾を砲台へ送り、先込め式の火砲から射出する。焼けただれた砲弾は、乾燥した木材に塗料を塗った船舶に対して絶大な威力を発揮し、直撃したなら船内に火災を発生させる。
葡萄海の東方に広がる乾燥地帯。人口二十万人ほど。王を名乗る豪族が割拠し、数十年に一度の周期で強力な王が誕生するが、その王もジャムカジャ族の侵略によって殺されるため、著しく発展が遅れている。現在では、川沿いに小さな集落や防御施設を持った街が散在し、その周辺にわずかな耕作地が広がるのみ。
まれに、人間とも亜人ともかけはなれた「獣人」が発見される。全身が体毛に覆われ、亜人よりも獣に近いものが「獣人」と呼ばれるが、獣人と亜人の中間ほどの生物もおり、彼らの区分けは明確では無い。群れをなして集落を襲う獣人も確認され、おそらくはジャムカジャ族からはぐれた一味と考えられている。
葡萄海へ唯一の出入り口である海峡。最も狭いところで幅9km、広いところで21km。潮流の変化が独特であり、航行するには潮の流れをよく知る船乗りが不可欠となる。ジュノー暦1780年(物語開始の10年前)、ガトランド王国と葡萄海連合が戦った「三叉海峡海空戦」は葡萄海の命運を決する一大艦隊決戦であり、これに勝利したガトランド王国は葡萄海の覇権国家となった。
「三叉海峡海空戦」において葡萄海連合軍の三人――「義」「信」「悌」の聖珠継承者は単騎で軍勢を相手取る活躍を見せ、「三聖」と称えられた。なかでも聖珠「義」の継承者「アイオーン」は飛行戦艦三隻を轟沈させた上、「孝」の継承者であったガトランド王国第一王女ラーラを討ち取る大戦果をあげ、葡萄海最強の剣士と目されている。以後アイオーンは与えられた領地に引きこもり、表舞台には立っていない。
「三叉海峡海空戦」に勝利したガトランド王国軍だが被害も大きく、「忠」の継承者・雪村宰相、「礼」の継承者・リリィ(ダダ王の妹)、「孝」の継承者・ラーラ(ダダ王の娘)が死亡。それぞれの聖珠は大切に保管され、次の継承者が現れるのを待つこととなった。
黒薔薇騎士団の本拠地、アテナ島にある塔。最上部には聖天使ジュノーが住んでいるとされるが、門は絶対的な封印によって固く閉ざされ、聖ジュノー正教会教皇であろうと内部に入ることはできない。門をあけることができるのは、八つの聖珠を全て継承した「救世主」のみとされている。
天使の塔の基部からは保存状態の良い「聖遺物(アーク)」が発掘され、黒薔薇騎士団の軍事力を支えている。黒薔薇騎士団の軍事力の要といえる「機械兵」も全て、天使の塔から発掘されたもの。このためアテナ島には聖遺物専門の研究機関が設置され、量産化の研究が日々行われている。
波静かで穏やかな内海。面積は230万平方キロメートル、平均水深1100メートル。海域には多くの帆船、ガレー船、軍船が行き交い、高度五百メートル上空には飛行艦も往来している。古くから海運業が盛んで、優れた船乗りが多く、洗練された航海技術で外洋を渡り、南方大陸(サウスディア)との遠隔地交易で栄えている。
その名の通りブドウの栽培が盛んで、それぞれの街に名物のワインがある。特にマドリア産のワインは最上級とされ、富裕層の間では高値で取引されている。
ガトランドの山中にある塔。ジュノー暦343年、この塔に降り立った魔王は地底からミーニャをはじめとする魔物を呼び出し、世界を支配した。以来、793年に救世主「八岐(やつまた)」が魔王を倒すまでの660年間、魔王による地上支配がつづくことになる。魔王が討伐されたのちもミーニャはガトー島を領有し、もともとガトー島の住民であった大八島族は国を奪われて、世界を放浪することとなった。
基部がミアズマ鉱の鉱床であり、日夜大規模な採掘が行われている。ミアズマ鉱は地中から発掘される「聖遺物(アーク)」の燃料として使用され、世界的に需要が高い。坑内では「ドラムワーム」と呼ばれる怪物がしばしば発生し、常駐の警備騎士によって討伐される。
魔王の塔が位置する「異形山」からは、多くの聖遺物が発掘される。ガトランド王国では「学びの塔」という研究機関が聖遺物の研究と再開発にいそしんでいるが、最近は学匠たちの腐敗が深刻化し、研究は遅々として進んでいない。