小学館ライトノベル大賞
第2回ライトノベル大賞 選考委員講評/編集部総評1

審査風景

冲方丁 講評
 それぞれ違う視点を持つ審査員が、得点形式で選考を行い、誰か一人の意見が突出することなく、編集部の方針もふくめた総意をもとに終始スムーズに議論された。新レーベルの創設を背景とした選考であったので、選考の結果が今後のレーベルのカラーに影響を与えるという緊張感があり、それが良い方へ働いたのではないかと思う。

 大賞に選ばれた『愛と殺意と境界人間』はテーマを明確にしようとする努力が土台となって技術や遊びを発揮しやすくしている。この受賞を機に、物語の段落についての思考を鍛えることで、より深いものが書けるようになる。二十代になったばかりの若さにも期待が持てる。ガガガ賞の『学園カゲキ!』は、学園ものに軽いひねりをくわえた軽快さが売りになっている。大きな仕掛けが最初から仕組まれているということをもっと意識し、物語の段落を工夫すれば、何倍も楽しめるものになる。大賞・ガガガ賞と、陰陽両極端の作品が選ばれた。ぜひ今後のレーベルの幅を大きく広げるような作品を書いていって欲しい。

 佳作の『携帯伝話俺』および『Re:ALIVE 〜戦争のシカタ〜』は、それぞれアイディアに光るものがあったが、それらの活かし方に難がある。文章の遊び、セリフのやり取り、いわゆるライトノベル的なバトルに終始するのではなく、物語作りを意識すれば、より良い作品になる。どちらも今後の成長に期待したい。

 期待賞で全ての作品に共通するのは、書き手が、自分の作品の物語性を意識せずに書いているということ。どれだけ光るアイディアがあり、キャラが魅力的でも、次に何が起こり、何が発展し、最終的にどうなるのかということへの責任が薄ければ、せっかくの仕掛けや意図も活きてこない。むしろ苦心して折り込んだアイディア群が互いに齟齬をきたし、水と油のように分離してしまう。破綻を恐れずに熱意を込めて書くことは大切だが、自分のアイディアに責任を持たず、逃げ場を探すような終わらせ方は、自ら厳に戒めて欲しい。未熟であることは決して悪ではない。というより当然である。だが、未熟であることを意識せずに済むような書き方は、本人にとってもそれを読む側にとっても、百害あって一利もない。書き続けることで、今日は分からなかったことが、明日は分かるようになる、そういう単純な努力を無限に反復できる心を、何より手に入れて欲しい。

仲俣暁生 講評
 「ライトノベル」に対する固定観念を突き破り、ジャンルの定義を変えてしまうような作品を期待したが、圧倒的な力を感じさせる作品に出会えなかったのは残念だった。最終選考に残った作品はそれなりに多種多彩ではあったが、予想していた範囲に収まっており、驚きを感じさせるものはなかった。もちろん、それは「オリジナリティの欠如」ということではない。ジャンルの約束ごとをふまえながら、その制約のなかで作者が書きたいことが十全に書き切れていれば、その作品はジャンルの壁を越えたのと同じである。オリジナリティや完成度より、突破力を評価しようという観点で、今回の選評に臨んだ。

 大賞に決定した『愛と殺意と境界人間』は、救いのない内容をクールに突き放して書いているところに好感を抱いた。絶望を描ききることと、絶望したままでいることは別のことで、この作品の場合、たしかに救いがない内容だが、読後感は決してネガティブなものではなかった。まだ若い作者なので、次作以後にも期待したい。ガガガ賞を受賞した『学園カゲキ』は、ある種熟達した語り口で、安心して楽しめた半面、新鮮さにやや欠ける気がしたが、ウェルメイドな職人芸には敬意を表したい。

 佳作となった二作はどちらも完成度には欠けるものの、その欠点を補うだけの勢いが感じられた。『携帯電話俺』は、まさかと思う一発アイデア作品だが、物語のつじつまを合わせようとする後半で失速するのが惜しかった。『Re:ALIVE 〜戦争のシカタ〜』は、日常生活のなかに戦争が入り込むという類似の作品が多いテーマのなかで、新しいアイデアを試しているところが評価につながった。

 期待賞となった5作からは、どれも「どこかで読んだような…」という既視感を感じた。それはオリジナリティの有無やストーリーの善し悪しのせいではなく、文章の力が決定的に欠けていたからだ。会話もそうだが、とくに地の文がたんなる状況説明や情景描写に留まっている作品が目についた。小説というのは、もっと大胆にいろんな表現を試せるジャンルなのに。五作のなかでは、メタフィクションに果敢に挑んだ『虚数の庭』に期待したが、思わせぶりなレベルに留まり、過去の偉大な作品にくらべると力不足。ライトノベルならではの語り口を活かそうとする試みはよいだけに、惜しい気がした。その他の作品には、とくに際だった印象を受けなかった。

森本晃司 講評
ライトノベルは燃えているのか?
うさぎが、答えた。イエス!!!!
雨が燃えている午後三時、ガガガ文庫ライトノベルの門が開いた。
大賞に選ばれた『愛と殺意と境界人間』は、やけにイカしてた! やけに尖ってた!!
ガガガ賞を受賞した『学園カゲキ』は、痛快だった! やるのーお主。
佳作『携帯伝話俺』『Re:ALIVE 〜戦争のシカタ〜』は、あと一歩!!
間違いなくこの中に、明日のヤバい奴がいる。
ガガガ文庫発の最新型のヤバい奴らだ。
三分で燃える男が欲しい水は何処!!
二分の男が三分で答えた。
一分女が北!!
零!!

ががが文庫は遊べるぜ!!
な!! 待ってくれよ、兄貴!!
あ!! 兄貴、立ちションしてら!!
二十歳になったら立ちションぐらいオーケー!! なのよ!!
スゴイ!! 何でも知ってんのな、兄貴は!!
魚が空を飛ぶ日だって、知ってるぞ!!

期待賞は、あと三歩。
だが、まだ判らない。答えは、ここにある。
『虚数の庭』は数字トリックが楽しめる。
『RIGHT×LIGHT』はアキラ症。
皆、目立たなすぎ!!
目醒めよ、同士よ。
君たちは、発信者なのだぞ!!
遠くまで跳びたいのなら、赤い美味しい実をつけろ!!
その足は何処に向かってる? 心が熱いなら信じろ!!
開かない扉はない。閉じない扉も開いている。

……ガガガガガガガガガ……… 期待賞を……
数十年ぐらいのハンデ一など、くれちまいな。

最後の人間が最後に喋る言葉を考えよう。
最後の人間が何に向かって喋るのか、考えよう。
わかった奴は、誰にも喋れない謎を、知るだろう。
空を飛ぶ魚達の乱舞の日。
ガガガ文庫の扉が開きやばい奴が解き放たれる。
ヤバい奴は空を飛ぶ魚を好く食べる。ヤバい奴は歯を磨かない。
ガガガガガガガガ… ガガガガガガガ…
こちらガガガ放送局!!!
来年また、待ってるぜ!!

編集部 総評
 最終選考会では、上位2作品が、他の作品に比べて際だった高評価を受けました。人間の心の暗部をテーマに捉えた作品『愛と殺意と境界人間』が大賞に、明るくまっすぐな青春を描こうとする『学園カゲキ!』がガガガ賞に選出されました。対照的な2作品のどちらを大賞とするか意見が分かれましたが、“殺人衝動”という難しい題材に真正面から取り組み、秀逸なドラマツルギーでエンタテインメント作品へと昇華させたその力量、作家としての独創性が評価され、『愛と殺意と境界人間』が大賞を受賞しました。佳作となった『携帯電話俺』と『Re:ALIVE〜戦争のシカタ〜』は、審査員たちの間で賛否両論激しく評価が分かれた2作品でした。

 最終選考に残った9作品のうち、上記4作品以外については、アイデア、文章力、構成力などの面でまだ力不足であるが、今後、伸びてゆくであろう可能性を感じさせる新人として、期待賞が贈られました。

 5月24日の創刊時にまず、大賞作品とガガガ賞作品が刊行されます。今回の受賞作品を読んで、小説家を志す多くの方が、今後、自分の可能性を開花させる場所としてガガガ文庫を選んでいただければ嬉しいです。第2回大賞への応募をお待ちしています。

最終選考結果


GAGAGA WIRE / ガガガ文庫公式サイト