小学館ライトノベル大賞
第9回小学館ライトノベル大賞2

最終結果発表!!

応募総数1172本の中かから厳正なる審査の結果、今回は5作品が受賞!! 刊行予定日も決定!!(ゲスト審査員:でじたろう(ニトロプラス))

ガガガ賞(賞金100万&デビュー確約)

『埼玉県神統系譜』 中村智紀
5月19日ごろ発売予定
白狼神社の一人息子、立花孝介は潰れかけた神社の経営を立て直すべく、神を名乗る女の手伝いをすることに・・・・・・。

ガガガ賞(賞金100万&デビュー確約)

『フルホシュタットの魔術士』 尾地雫
6月18日ごろ発売予定
“魔都”フルホシュタットで民間騎士として働く龍之介は、ひょんなことからダークエルフの姫君を護衛することに。だが、そこには様々な陰謀が潜んでいて――。

優秀賞(賞金50万&デビュー確約)

『あの夏、最後に見た打ち上げ花火は』 助供珠樹
5月19日ごろ発売予定
中学2年の夏休み、僕は不思議な少女“ノア”と出会った。少年少女たちが織りなすひと夏の青春グラフィティ。

優秀賞(賞金50万&デビュー確約)

『異世界錬金メカニクス』 伊神一稀
7月17日ごろ発売予定
突如錬成された異世界への門。それを崇める術者たちの思惑が交差するなか、門を閉じるべく結ばれた古の契約が、いま果たされる!!

審査員特別賞(賞金30万&デビュー確約)

『秘蹟商会』 小山恭平
7月17日ごろ発売予定
人が発現した異能を買い取り、その異能を必要としている誰かに販売する異能力転売業者の不思議な物語。

(敬称略)

ゲスト審査員講評 でじたろう(ニトロプラス)

 好きなものを説得力のあるコンテンツ表現によって啓蒙したい。そんな理念を持ちながらニトロプラスは15年間頑張ってきて、少しずつ成果が出始めています。この経験を元に、ライトノベルで自らの価値観を啓蒙できる次世代コンテンツクリエイターを探すべく、今回のガガガ大賞選考に臨みました。最終選考に残った作品はどれも作者の大好き! を感じさせられました。あとはその想いを読者へ啓蒙できそうかどうかが焦点となりました。

 「フルホシュタットの魔術士」は混沌とした世界観や様々な人ならざるキャラクターたちの設定にオリジナリティがあり、独特な異世界で繰り広げられる人外同士の派手なアクションは、まさに作者の大好きが伝わってきました。
しかし読み手の視点が欠けているのか、状況を想像しやすいような説明や描写が足りない所がありました。そこを改善して説得力を持たせられれば、共感を得、啓蒙できると思いました。

 ノスタルジックな世界とほんのりミステリーSFが組み合わさった情緒あふれる「あの夏、最後に見た打ち上げ花火は」。構成力や文章力が高いので説得力があり、情景をイメージしやすい作品でした。強いて問題を言えば印象に残るようなエンタメ性が弱いと感じました。それ自体が持ち味なのですが、エンタメ作品はどこかエッジがあるべきだと僕は思っています。
決して派手にするとか、奇抜にするという意味ではなく、ジュブナイル特有の甘酸っぱいエロチズムだったり、主人公とヒロインの運命へのドキドキするような示唆であったりなど、読者の感情を震わせるような何かがあると格段に良くなるはずです。

 「埼玉県神統系譜」は潰れそうな神社の息子が神様と神社再建を図るお話。巧みな文章で、森見登美彦氏や西尾維新氏を彷彿させる主人公一人称の独特な語り口が魅力的ですが、そこに頼りすぎている帰来があります。起承転結をしっかりさせて説得力のある構成にできれば完成度は飛躍的に増すと思われます。できれば埼玉県を舞台にした理由がはっきりあると、個人的にはもっとこの作品を好きになれそうです。

 多くのラノベ読者層に一番受けが良さそうな「異世界錬金のメカニクス」はオーソドックスな異能バトル物。主人公の異能がヒール系という斬新さは評価できます。しかし僕にとっては展開に必然性が感じられず、終始「何故?」となってしまいました。読者を物語に没頭させるには、しっかりと客観性をもって「何故?」と思われそうな部分に理由をつけて、説得力をもたせられると良いと思います。作者のラノベ好きぶりが伝わってきますが、ラノベ読者にラノベの啓蒙にとどまるのは惜しかったです。何か別の啓蒙ネタを併せ持って欲しいと思います。

 異能を売買するお店でアルバイトをしている高校生の活躍を描く「秘蹟商会」は突っ込みどころ満載。これが天然なのか計算なのかはわかりませんが、結果的に作品の個性となって異彩を放っていました。フィクション作品はウソの世界であるのだからこそ説得力が必要、というのが僕の持論です。でも決してリアリティだけが説得力を持たせる方法ではないのだと、この作品は示しています。応募原稿のままでは商業作品として厳しい完成度ですが、もう一歩センスを磨けば最高得点に上り詰める予感があり、改稿に期待がかかる作品です。

 以上5つの作品を僕なりの視点から評価させて頂きました。正直、ラノベ作品はそれほど読み込んでいないし、この業界の時流もよくわからないので、安定感のあるヒット作品を生むにはその道のプロである編集部の意見だけで充分だと思います。しかしエンタメコンテンツ業界で高い評価を得たいのであれば、大事にすべきポイントは変わってきます。その答えはラノベ以外のコンテンツや現実世界に存在する面白いものにあります。その面白さを好きになって、ラノベを通して読者に啓蒙することができれば、僕は惜しみない拍手を贈ります。今回の選考の中で、その可能性に一番近いと僕が感じた作品は「秘蹟商会」です。人間が好きで悩みを解決してあげたい、という普遍的で魅力的な価値観を感じたのがその理由です。
 以上5つの作品を僕なりの視点から評価させて頂きました。改稿されより良くなった5作品の発売を楽しみにしております。

編集部講評

 第9回小学館ライトノベル大賞・ガガガ文庫部門に多くの作品をご応募いただきまして、ありがとうございました。
 ガガガ文庫部門には、今年は1172本の作品が集まりました。昨年に引き続き1000本を超える応募作数をいただきましたこと、深く感謝いたします。

 今年はゲスト審査員に、でじたろう(ニトロプラス)様を迎え、編集部とでじたろう様による厳正な審査の結果、ガガガ賞2作、優秀賞2作、審査員特別賞1作の計5作品を決定いたしました。

 各作品についての講評に関しては、でじたろう様の講評にて代えさせていただきますが、今年の応募作の傾向は、内容、文章力、キャラクターなど、バランスの良い作品が多かったという印象があります。基礎力という意味では、かなりレベルの高い年だったのではないでしょうか。しかし、その一方で、飛び抜けて個性的で特徴のある作品というものがあまり見受けられませんでした。大賞作品は該当作なしということもそれが理由になるかと思います。

 文章を人に読ませるためには、技術面はもちろん大事です。しかし、それ以上に、読む者を引きつけるのは、文面から溢れ出る「これを読ませたい!」という筆者個人の想いです。それら二つのバランス感覚に優れた作品が広く世に流布する作品になるのではないかと思います。
 今回受賞した5本の作品はいずれも、その可能性を十分に感じさせるものでした。彼らの受賞作はさらなる推敲と改稿をへて、新しい“作品”として5月から刊行されていきます。応募いただいた皆様にも、ぜひ発刊を楽しみにしていただきたいと思います。
 また、すでに第10回の募集も始まっています。年を追うごとに盛り上がってきている小学館ライトノベル大賞ですが、次回はどのような作品が編集部の元に届くのか、編集部一同楽しみにお待ちしております。



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