小学館ライトノベル大賞
第2回小学館ライトノベル大賞2

冲方丁 講評
 このたびの選考も、審査員それぞれの評を汲みつつ、編集部の意図も汲みつつ、広範囲にわたり議論が行われました。

 『僕がなめたいのは君っ!』は、まだまだ完成度やテーマの広さについて難点が指摘されつつも、それらを克服してふんだんにニーズや新奇なアイディアを取り入れたものに仕上げることができ、より優れたものになるという期待をもっての授賞となりました。

 『コピーフェイスとカウンターガール』は奇抜なアイディアに大真面目に取り組んで一つの作品に仕上げたこと、作品自体が新たなネタ(パターン)を提供できることが評価されました。アイディアの新鮮さを保つ工夫次第でより面白いものに仕上がるはずです。『七歳美郁と虚構の王』は特異な舞台を描くとともに、独特の青春ものに仕上げようとしている姿勢が評価されました。人物造形と交流のあり方に欠点が集中していることから、逆にそれらを克服し、よりエンターテイメント性の高いものに仕上げて欲しい作品です。『どろぼうの名人』は雰囲気モノとしての色調を作り上げようとしている点が評価されました。人物の心情の中に物語が溶け込んでゆく有り様をもっと強めることで、事件が起こることを期待する以上に、その世界に浸る気持ち良さを提供できる作品になるはずです。

 『魔王を孕んだ子宮』は独特な設定の構築を柱にした作品作りをしている点が評価されるも、構築が足らず、矛盾しているような何かが足らないような印象を与えることから期待賞となりました。逆にその難点を克服しさえすれば飛躍的に向上しうる作品です。

 総じて、欠点が明白である作品が増えたことは喜ばしいことだと感じました。ある程度の実力がつかない限り、これだという欠点は見えてきません。逆に欠点さえ見えれば、それを克服することで次のステップに容易に辿り着けます。これからも応募作全体のレベルはゆるやかに上がっていくでしょう。恐れずに自分の作品の欠点を見つけ出し、全力で克服することが、授賞への最短の道のりです。今回の授賞を残念ながら逃した方々も、ぜひ今後とも力作に取り組み、授賞へのステップを上っていただければと思います。

仲俣暁生 講評
 2回目の今年は大賞該当作なしという、きわめて低調な結果となった。ガガガ賞以下の受賞作品についても、きわだった印象を残す作品がなかった。全体として、「ライトノベル」というフォーマットに安易に寄り掛かっているように感じられる応募作が多く、既存作家や作品を乗り越えていこうという野心が感じられなかったことが、なによりも残念でならない。

 以下、印象に残った個別作品にのみコメントする。もっともオリジナリティが感じられたのは、期待賞となった『魔王を孕んだ子宮』である。「租界跡(アルシーヴ)」「軍字(ぐんぬあざ)」「健字(けんぬあざ)」といった独特の語法で、異世界の東京におけるスケールのデカいバイオレンス学園活劇を構想したところを大いに買う。会話におけるユーモアのセンスも、最終候補作のなかではこの作品がピカイチだった。ただ、「小説」と言うよりは映像のシナリオ風なのが弱いのと、「子宮」というメタファーを使うことがものすごく安易な方法である、ということはわきまえて欲しかった。もっともっとレベルの高い作品を書けるはずなので、既存の小説をたくさん読んでください。ガガガ賞となった『僕がなめたいのは君っ!』は、あまりにもひねりのないタイトルにセンスのなさを感じたが、植物系ライトノベルという切り口には将来性があるかもしれない。もっとも、「花狩(はなかり)」「蜜花(みつばな)」「花視(はなみ)」「蜜口(みつくち)」等々といった造語は、いかにもといった感じで、いまいちイメージ喚起力がない。なんとか落とすところに落としたというところだろうか。今後の精進を臨みたい。佳作となった3作には、あまりつよい印象を受けなかった。その理由としては、作者自身がそもそも高いところに目標を置いていない、ということが挙げられるかもしれない。書き慣れた感じの水準作よりは、破綻していてもいいので、やぶれかぶれの作品を読みたかったのだが、今回はそういう作品にはあまり出会えなかった。

森本晃司 講評
未着

編集部 総評
 ガガガ賞の『僕がなめたいのは君っ!』は作品全体に通底する新鮮なイメージが高く評価されました。佳作の『コピーフェイスとカウンターガール』は等身大のキャラクターの描き方とアイデアの奇抜さの融合が、『七歳美郁と虚構の王』はぐんぐんと先を読ませる文章力が、『どろぼうの名人』は画像・映像を想起させる力が、それぞれ、優れていました。期待賞の『魔王を孕んだ子宮』は、作品にこめられた熱量の大きさが群を抜いていました。

 第3回の募集は、昨秋よりすでに始まっています。プロット作りを終え、原稿執筆作業に入ったという方もたくさんいるでしょう。9月末の締切をめざし、頑張ってください。今年も一本でも多くの作品をお送りいただきたく、お待ちしています。



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